俺のことなら俺に訊け、俺通信です。 愛です。2001年から書き続け、2014年5月にサーバーを変更しました。 それ以前のテキストはこちら→http://s.maho.jp/homepage/6c55eadec2d1b3bf/

5年前の世界

死にかけの女が寿命を買う俺通信です。おはなし。

 

5年くらい前にAmazonで買った寿命が今更届いてそりゃ当時人気商品だったから時間かかるのもわからないでもないけど。
大病して心がやられちゃっていたんだろう、 その時に買った。
いくらだったかも忘れた。手が届く金額で、しかも必死だった。

ファルファッファちゃんが昼寝をしていると、 誰もいないお屋敷にインターフォンが鳴り響いた。
彼女は、インターフォンを何度も鳴らす人間をよしとしない。
ブラトップの締め付ける部分をぼりぼりと掻きながら、 宅配業者に念を飛ばした。
「玄関先に置くとか機転がきかないものかねまったくもう一回でもインターフォンを鳴らしたら殴る」その念をキャッチしたのか、 佐川のお兄さんは大きな声でこう言った。
「ファルファッファさーん!寿命のお届け者でーす!」
あー馬鹿、お兄さん本当馬鹿。なんで言うの。
年頃ってわけでもないけど女性の荷物の中身言うってどういう神経してんの。お屋敷って本当に広いから、 寝起きで玄関までたどり着くのに数分かかる。

せっかちなのか過剰に親切なのか、佐川のお兄さんはずっと「 ファルファッファさんの追加の寿命ですよー!」と叫んでいる。
とうとう近所の人が集まってきてしまった。
みんなこういうの好きなんだ。下世話、まったく、 デリカシーのない、田舎ってこれだから嫌だ。

だいたい私もうすぐ死ぬのに。 生きてたってただ横になっているだけなのに。 こんなに弱って何もできないのに。
生きててどうなんのよ。半年も寿命のばして、何もできないで、 なんだっつーのよ。
誰かにあげられないかなこれ。
部屋に戻り乱暴にベッドに座る。バリバリと梱包をやぶると、思ったより安っぽいプラの透明ケースの中にぼんやりとしたハート型の何かが浮かんでいた。
「せめてアクリルケースにいれたらいいのに、 なんでこういうところ手を抜くかねー」
死ぬ間際までファルファッファちゃんの口の悪さはなおらなかった 。
気絶する時は目の前が真っ白になるんだけど、 死ぬ時って真っ暗になっていくんだちょっとこわいな、と思いながらファルファッファちゃんは死んだ。
ふわふわの真っ赤なハート型は、ゲームのセーブポイントの様に、彼女のおなかの上でふわふわと浮かぶばかりであった。